カジュアルに未来 久井諒子「ひきだしにテラリウム」
こういうの、SF(少し不思議)っていうんでしょうか。そうなんでしょう。
一冊に33編が収められた短編集です。短編集にしても、エピソードが多い部類に入ると思います。作中のタイトルにもなっていますが、ショートショートを強く意識して描かれたみたいですね。
ダンジョン飯に引き続き、久井諒子作品のレビューです。
ようこそ、ショートショートのワンダーランドへ。笑顔と涙、驚きと共感。コメディ、昔話、ファンタジー、SF……新進の気鋭、九井諒子が描く万華鏡のようにきらめく掌編33篇。
カジュアルに未来
さらっと未来。当たり前。
でも話がすんなり入ってくるのは、登場人物が自分と同じ悩みを抱えてるから。これでもかってくらい等身大。ああこれ俺だ、私だとなること請け合いです。
時代背景が違っても、人間の悩みなんてのは大して変わらないんだろうなあという気にさせられます。
作品のタッチ的にも、そんな大仰な話じゃないんですけどね。
ファンタジーも世知辛い
収録される短編はSFな設定が多いのですが、どの話もどことなく生活感があり、妙なリアリティが漂っているんです。
あるときはグルメレポーターとして、漫画の編集者として、またあるときは就職面接官で。
これでもかというばかりに、ファンタジーはキャラクターを通して馴染みのある現実とクロスオーバーされます。
同著「ダンジョン飯」を読んでいても思いますが、この作者は生活感の出し方が本当にうまい。 ファンタジーも楽じゃあないんだなあ、という気にさせられます。
お気に入りの話
全部おすすめなんですが、お気に入りをあげてみましょう。
恋人カタログ
ラブコメ好きとしては外せない、とってもドラ◯もんないい話。
今付き合ってる人と、このまま一緒にいていいのだろうか。他にもっといい人がいるんじゃないか、という万人の悩みにSFで回答する良短編。
タラバガニ
タラバガニが生物学上は、カニではなくヤドカリの仲間らしい。 「いや、カニだろ」っていう違和感を人間とチンパンジーに置き換える話。
転校してきたチンパンジー、遺伝子は猿より人間寄りなので、彼はほぼ人間だと主張するクラスメイト。
既視感がすごい。まさに、極論を聞いたときのあの違和感。反論しにくいネタで、不自然な正論を振りかざしてくる、そんな人周りにいませんか?
軽快なタッチで描かれる3ページだが、風刺が効いていてGood。大いに笑った。
ノベルダイブ
真骨頂って感じです。
寝る前に小説を読むと、夢との境界が曖昧になって物語の中に飛び込んでいくような感覚。これをノベルダイブと称して、その一部始終を描く作品。
中世の姫が森を抜けて、市役所で住民票をとるような短編に仕上がっています。
現実逃避しても、どこか頭の隅で考えてしまうんですよね。これは100%共感できる。
読んでみてください
ここまでレビュー書きましたが、これじゃ全然魅力伝わらないですね!笑
一話ずつ感想書いていくのも無粋な気がするので、こんなもんでやめます。ショートショートって難しい。
ごった煮感含めて大きな魅力なので、ぜひ手にとってみてください。激しくおすすめの一冊です。